大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和24年(つ)229号 判決

被告人

小堀薰雄

主文

本任控訴はこれを棄却する。

理由

前略

弁護告山本直平の控訴趣意第一点について。

刑事訴訟法第二百二十三條第二百二十七條には單に「被疑者以外の第三者」と規定してあるから一應所論のように、この「被疑者」と云ふ中には共犯関係に立つ他の共同被疑者を含めたものと解し得ないでもない樣に思はれる。然し乍ら犯罪搜査の面から考えて見ると容易に左證し得ない。

共犯者数人ある被疑事件を一箇の事件として統一的に搜査を進めることは望ましいことではあらうが、さればと云つて、必ず一箇の事件として統一的に事件を進めなければならないとすることは、実際上も不可能であるし、又左樣に解しなければならぬと云ふ根拠もない。蓋し若し各別の被疑事件とすることが出來ぬと解すると、共犯者の一人は檢挙逮捕されているのに、他の一人は逃亡して逮捕に至らない場合に共同被疑事件としてでなければ搜査は停頓の止むなきに至るであろう。また既に一人が逮捕されたが絶対的に犯行を否認して居り他の者を搜査官が共犯者と氣附かずに参考人として出頭を求め取調べて共犯者であることを自供ししかもその者は公訴提起の必要なしと認められるような場合の如き、これを他の共犯者の事件の参考人とすることも出來ないとすることは、実際を離れた迂遠の理となるであろう。しかしてかような場合に法第二百二十七條の要件を具備すれば、この者につき証人訊問の請求がなされても差支へないものと解すべきであろう。即ち共犯者数人ある事件を一箇の事件とするか、各別箇の事件として搜査を進めるかは搜査官憲がその場合場合に應じて、自由に選び得るところであつて、後者の場合共同被疑者は前記法第二百二十三條の「被疑者」には該当しないものと解するのが相当である。この場合かく解してその者が召喚を受け参考人として取調らるるに当つても法第百九十八條本文但書第三項乃至第五項が適用され、又証人としての訊問を受くる場合には、法第十一條の規定が準用され証言拒絶をもなし得るのであるから、決してその者が供述を強要される等権利の侵害を受くる樣に不当な結果を招來することはないものと云はねばならぬ。

以上説明の如く共同被疑者は法第二百二十七條の証人たるの資格なしとする所論は到底採用し得ないのであつて、原審が右法條によつて、爲された池浦明に対する裁判官の証人訊問調書(檢第二十四号証)の供述記載を証拠として採用したのは相当であつて、原判決には採証の法則に違反する点はなく、理由不備の違無も存しないと謂はねばならぬ。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例